東北のリミナルスペース——もう出航しない連絡船から白い美術館まで、実在する8か所
東北には、役目を終えたあとも形をそのまま残して公開されている船や銀行、県庁舎と、白く広い現代の公共建築が、今も誰でも行ける場所としてあります。人の少ない時間に訪れると、使われなくなった時間と、まだ使い道の決まっていない空間の静けさが見えてきます。LIMapに登録した8か所を紹介します。
東北のリミナルスペースは「役目を終えた建物」と「白く広い公共空間」に多い
東北で見つかるリミナルスペースには、二つの特徴があります。ひとつは、役目を終えたあとも保存され、公開されている建物や乗り物です。航路のなくなった連絡船、銀行でなくなった銀行、県庁でなくなった県庁舎。中を歩くと、働いていた人たちだけがいなくなったような空気が残っています。
もうひとつは、平成以降に建てられた白く広い公共建築です。美術館や図書館、展望タワーは、人が少ない時間になると、使い道の決まっていない広い空間だけが残ります。この記事では、青森・仙台・秋田・盛岡・山形・会津・花巻で「今、誰でも行けること」を条件に選んだ場所を紹介します。
青森:もう出航しない連絡船と、白い迷路の美術館
青森駅のすぐそばの岸壁には、青函連絡船の八甲田丸が係留されています。1964年に就航し、1988年3月まで青森と函館を結んだ船です。今はメモリアルシップとして公開され、列車ごと船に積み込んでいた車両甲板には、役目を終えた客車や貨車がそのまま並んでいます。昭和の青森駅前を人形で再現した展示もあり、出航しない船の中を歩くと、止まった時間の中に迷い込んだような気分になります。
三内丸山遺跡のとなりの青森県立美術館は、2006年に開館しました。設計は青木淳で、発掘現場のような土の溝に、白い箱をかぶせたような建物です。白い壁の通路や階段が入り組み、歩いているうちに自分がどこにいるのか分からなくなります。
仙台と秋田:夜に浮かぶガラスの建物と、無料の展望室
仙台・定禅寺通りのせんだいメディアテークは、2001年に開館した伊東豊雄設計の公共施設です。床を支えるのは、海草のようにゆらぐ13本の鉄骨のチューブだけ。ガラス越しに何層もの床が見え、夜になると光る水槽のように通りに浮かびます。誰でも無料で22時まで入れ、人の少ないフロアには、使い道の決まっていない広い空間が静かに広がっています。
秋田港の端に立つポートタワー セリオンは、1994年に開業した高さ143.6mのガラスのタワーです。地上100mの展望室は2007年から無料で開放されていて、夜や平日は人がまばらです。窓の外には日本海と港の明かりだけが広がります。
盛岡と山形:客のいない銀行と、役人のいない県庁
盛岡の岩手銀行赤レンガ館は、1911年に盛岡銀行の本店として建てられた、辰野金吾・葛西萬司設計の建物です。国の重要文化財で、2012年まで銀行として使われ、2016年から公開されています。高い天井の旧営業室には、客も行員もいないカウンターだけが残っています。
山形の文翔館は、1916年に建てられた旧県庁舎と県会議事堂です。国の重要文化財で、約10年かけて当時の姿に修復され、今は無料で公開されています。長い廊下の先に、誰も座っていない旧知事室や会議室が続き、役所としての役目だけが抜け落ちたような静けさがあります。
会津と花巻:すれ違わないらせんと、百貨店の大食堂
会津若松の飯盛山にある会津さざえ堂は、1796年に建てられた六角三層の木造のお堂です。中は上りと下りが別になった二重らせんのスロープで、一方通行のため、ほかの参拝者とすれ違うことがありません。ぐるぐると上って下りるうちに、いつの間にか入口とは別の場所から外に出ています。
花巻駅から歩いて約10分のマルカンビル6階には、1973年に開業したマルカン百貨店の大食堂が残っています。百貨店は2016年に閉店しましたが、大食堂は地元の人たちの手で再び営業を始め、今も続いています。広い店内と高い天井には、昭和の百貨店の大食堂の空気がそのまま残っています。
行くときの、現実的な注意点
ここで紹介した場所の多くは、今も人が働き、訪れる場所です。撮影するときは、職員や利用者、ほかの客の顔が写らないように気をつけ、三脚やフラッシュは使わないようにしてください。せんだいメディアテークには図書館があり、マルカンビル大食堂は営業中の食堂です。
美術館や資料館は、展示替えや工事で休館することがあり、八甲田丸は冬のあいだ休館日が増えます。東北の冬は雪が多く、日も短いので、時間と天候には余裕を持って出かけてください。
撮ったら、地図に残してください
東北には、まだ記録されていない古い公共建築や、役目を終えた建物がたくさんあります。雪の日にしか見えない景色も少なくありません。
LIMapは、そうした場所を写真と位置つきで残していく地図です。見つけた場所があれば、ぜひ登録してください。
よくある質問
仙台で手軽にリミナルスペースを感じられる場所は?
せんだいメディアテークがおすすめです。地下鉄南北線の勾当台公園駅から歩いて約7分で、9:00から22:00まで無料で入れます。ガラス張りの建物は夜に外から眺めるのもよく、人の少ない時間のフロアには独特の静けさがあります。
無料で入れる場所はありますか?
せんだいメディアテーク、セリオンの展望室、文翔館は入館無料です。八甲田丸、青森県立美術館のコレクション展、岩手銀行赤レンガ館、会津さざえ堂は有料です。
冬に行っても大丈夫ですか?
どこも冬も公開されていますが、八甲田丸は11月から3月まで月曜が休館になるなど、季節で時間や休みが変わる施設があります。雪で移動に時間がかかることもあるので、行く前に各施設の公式情報を確認してください。
この記事が、あなたの知らない場所への入口になっていれば幸いです。
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