北海道のリミナルスペース——札幌の地下通路から湖に沈む橋まで、実在する9か所
北海道には、まっすぐ続く札幌の地下通路や、列車の来なくなった線路、もう出航しない連絡船が、今も誰でも行ける場所として残されています。人の少ない時間に訪れると、広い土地に置き去りにされた「途中の場所」の静けさがはっきりと見えてきます。LIMapに登録した9か所を紹介します。
北海道のリミナルスペースは「地下」と「役目を終えた線路や船」に多い
北海道で見つかるリミナルスペースには、二つの特徴があります。ひとつは札幌の地下です。駅と繁華街を結ぶ地下の歩行空間や地下街が長くまっすぐ延び、同じ柱と照明がどこまでも続きます。
もうひとつは、役目を終えたあとも形が残された線路や船です。廃止された鉄道の線路が街なかの散策路になり、航路のなくなった連絡船が岸壁に係留されたまま公開されています。この記事では、札幌・小樽・函館で「今、誰でも行けること」を条件に選んだ場所を中心に、道東の二つの廃線跡も紹介します。
札幌の地下:520mの歩行空間と、1971年の地下街
札幌駅前通地下歩行空間、通称チ・カ・ホは、JR札幌駅と大通を結ぶ約520mの地下通路です。2011年3月に開通しました。幅12mの通路の両側に広場がとられ、白い柱と天井の天窓からの光が、同じ間隔でどこまでも続きます。通れるのは5:45から24:30まで。開いたばかりの早朝には、終わりの見えない広い廊下だけが残されます。
大通からすすきのへ続くさっぽろ地下街ポールタウンは、札幌オリンピックの前年、1971年に開業した約400mの地下街です。日中は人で埋まる通路も、店のシャッターが下りた時間や全館休業の日には、同じような店先が並ぶ長い地下道だけになります。
誰もいない舞台:イサム・ノグチの公園と、住む人のいない町並み
札幌市東区のモエレ沼公園は、ごみ処理場の跡地に、彫刻家イサム・ノグチの基本設計で「全体をひとつの彫刻作品とする」考えのもとに造られた公園です。1982年に着工し、2005年にグランドオープンしました。人工の山、ガラスのピラミッド、まっすぐな並木。幾何学的な形だけが大きな空の下に置かれ、人の少ない朝には、誰かが用意したまま忘れていった舞台のように見えます。
厚別区の北海道開拓の村は、明治から昭和のはじめまでの北海道の建物を移築・再現した野外博物館で、1983年に開村しました。約54haの敷地に役場や商店、駅舎が並びますが、そこに暮らす人はいません。人の少ない日には、町並みごと時代から切り離された舞台装置の中を歩いているような感覚になります。
小樽:列車の来ない線路と、役目を終えた銀行
小樽の旧手宮線は、1880年に開業した北海道で最初の鉄道の一部で、1985年に廃止されました。線路は撤去されずに残され、街なかの約1.6kmが散策路として整備されています。もう列車の来ないレールと踏切が、建物のあいだをまっすぐ延びていきます。
線路のすぐ近くにある日本銀行旧小樽支店は、1912年に建てられ、2002年に支店が廃止されたあと、金融資料館として無料で公開されています。銀行が建ち並び「北のウォール街」と呼ばれた通りの中で、吹き抜けの旧営業室や大きな金庫の扉が残る館内には、役目を終えた銀行の静けさが漂います。
函館:もう出航しない連絡船
函館駅から歩いて約3分の岸壁に、青函連絡船の摩周丸が係留されています。1965年に就航し、1988年3月に青函航路が廃止されるまで青森と函館を結んだ船です。今は記念館として公開され、並んだ座席や操舵室、無線通信室を見ることができます。
乗客のいない客室に座ると、窓の外には今も港が見えます。二度と出航しない船の中には、最後の航海を終えたあとの時間がそのまま流れています。
函館市青函連絡船記念館摩周丸
道東:湖に沈む橋と、森の中の駅跡
上士幌町の糠平湖には、旧国鉄士幌線のタウシュベツ川橋梁が残っています。1937年に完成した、11連のアーチが並ぶコンクリートの橋です。1955年に糠平ダムの建設で線路が付け替えられて使われなくなり、今は湖の水位によって、冬から春にかけて姿を現し、秋までに湖に沈みます。国道273号沿いの駐車場から歩いてすぐの展望台から、対岸に眺めることができます。
同じ士幌線の幌加駅跡には、ホームとポイントを含む線路が今も残されています。1978年に列車の運転が休止され、1987年に路線が廃止されました。深い森の中に、列車を待つ人のいないホームだけが残っています。
行くときの、現実的な注意点
地下街や資料館、記念館は、人が働き、訪れる場所です。撮影するときは店や人の顔が写らないように気をつけ、三脚やフラッシュは使わないようにしてください。北海道開拓の村では、SNSのライブ配信やドローンの使用が禁止されています。チ・カ・ホは深夜から早朝までは通れません。
道東の二つの廃線跡は、ヒグマが出る地域にあります。タウシュベツ川橋梁は、橋のそばまで続く林道に一般車が入れないため、国道沿いの展望台から眺めるか、地元のガイドツアーを利用してください。冬の北海道は日が短く、雪で道が閉ざされることもあるので、時間と天候には余裕を持って出かけてください。
撮ったら、地図に残してください
北海道には、まだ記録されていない地下通路や、役目を終えた建物がたくさんあります。雪に閉ざされた季節にしか見えない景色も少なくありません。
LIMapは、そうした場所を写真と位置つきで残していく地図です。見つけた場所があれば、ぜひ登録してください。
よくある質問
札幌で手軽にリミナルスペースを感じられる場所は?
札幌駅と大通を結ぶ地下歩行空間チ・カ・ホと、大通からすすきのへ続く地下街ポールタウンがおすすめです。どちらも駅から直接入れて、同じような景色の長い通路が続きます。人の少ない早朝や、店が閉まったあとの時間が向いています。
タウシュベツ川橋梁はいつ見られますか?
糠平湖の水位によって変わります。例年、水位が下がる冬から春にかけて姿を現し、秋までに湖に沈みます。国道273号沿いの駐車場から歩いてすぐの展望台から眺められます。橋のそばまでの林道は一般車が通行止めで、ヒグマ対策も必要なため、近くで見たい場合はガイドツアーを利用してください。
無料で入れる場所はありますか?
チ・カ・ホとポールタウンの通路、小樽の旧手宮線跡は自由に歩けます。日本銀行旧小樽支店金融資料館も入館無料です。北海道開拓の村と摩周丸は有料です。
この記事が、あなたの知らない場所への入口になっていれば幸いです。
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