廃ホテルのリミナルスペース|外から眺める、時間が止まった実在の10か所
旅の途中に一晩だけ泊まるはずの場所から、客も従業員もいなくなった。廃ホテルには、地方の観光がにぎわっていた時代の記憶が、そのまま閉じ込められています。心霊目的ではなく、敷地の外から眺められる10か所を、見られる場所と守りたいルールとともに紹介します。
廃ホテルが、なぜリミナルに感じるのか
ホテルは、もともと誰かが住む場所ではなく、旅の途中に一晩だけ泊まる「通過点」です。同じ形の窓が何十も並び、長い廊下の両側に同じ扉が続く。その場所から客も従業員もいなくなると、通過点だけが取り残され、行き先のない建物になります。
温泉街の大きな旅館や、スキーブーム・リゾートブームのころに建てられたホテルには、地方の観光がにぎわっていた時代の記憶がそのまま残っています。建物が大きく、周りが今も営業していることも多いため、「さっきまで誰かがいたような」落差が生まれます。
ただし、廃ホテルは心霊スポットとして扱われがちで、肝試し目的の侵入が後を絶ちません。この記事で紹介するのは、敷地に入らずに外から眺められる場所や、決められた見学ツアーがある場所だけです。中に入る方法は書きませんし、入らないでください。
山の上の「廃墟の女王」:旧摩耶観光ホテル(神戸)
神戸・摩耶山の中腹に建つ白い建物は、摩耶ケーブルを運営していた会社が1929〜30年ごろに建てた「摩耶倶楽部」が始まりです。戦後に改装されて「摩耶観光ホテル」となりましたが、台風などの被害で1967年ごろにホテルとしての営業を終え、その後は学生の合宿所として使われたのち、1993年に使われなくなりました。
船のような形の建物が山の緑から突き出す姿から「廃墟の女王」と呼ばれ、2021年には国の登録有形文化財になりました。いまは、摩耶ケーブルの虹の駅(副駅名「旧摩耶観光ホテル前」)の近くから外観を眺められます。建物の中や近くへは、保存活動の費用にあてる有料のガイドツアーでのみ入れます。
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温泉街に残る大きな旅館:きぬ川館本店・山渓苑・山海館・大川グランドホテル
栃木県の鬼怒川温泉では、川沿いに大型ホテルが崖に張り付くように並んでいます。きぬ川館本店は、河原に造られたのが始まりの大浴場「かっぱ風呂」で親しまれた老舗でしたが、1999年に約30億円の負債を抱えて経営破綻し、鬼怒川温泉で最初に閉館したホテルになりました。2022年には侵入を防ぐため入口がふさがれ、2026年には日光市などが温泉街の廃ホテルの解体に向けた協議会を立ち上げています。外観は鬼怒川の対岸から見えます。
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札幌の奥座敷・定山渓温泉では、温泉街の中心にホテル山渓苑の建物が残っています。1965年に創業し、2014年にいったん閉館したあと、別の会社のもとで再開しましたが、2020年2月から休業したままです。すぐ隣の定山渓ホテルも2021年から休館していて、にぎやかな温泉街の真ん中に、窓の暗い大きな建物が二つ並んでいます。温泉街の道から外観が見えますが、私有の建物なので敷地には入らないでください。
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熊本県水俣市の湯の児温泉にある山海館は、長さ30メートルの洞窟風呂で「日本一の洞窟風呂」として知られた旅館です。71室を持つ温泉街でも有数の規模でしたが、2015年4月に事業を停止しました。木造5階建てとされる旧館の両側に高層の棟が建つ、珍しい姿のまま海辺に残っています。隣の湯の児温泉公園から見えます。入口には立入禁止の表示と防犯カメラがあります。
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静岡県東伊豆町の大川グランドホテルは、国道135号沿いの海辺に建つ廃ホテルです。1960年代に開業したとされ、2000年代の半ばに営業を終えたとみられます。窓の抜けた本館は国道からよく見え、2024年のドラマ『地面師たち』のロケ地にもなりました。周りの建物は一部が取り壊されたとも伝えられています。交通量の多い国道なので、車に気をつけ、安全な場所から眺めてください。
スキーブームとリゾートブームの跡:旧・石打ロイヤルホテル・ダイヤモンド斑尾
新潟県南魚沼市の石打は、関東から近いスキー場の町です。国道17号を走ると、丘の上にお城のような5階建ての建物がぽつんと見えます。アーチ形の窓や外付けの螺旋階段、とんがり屋根の塔を持つスキー客向けのホテルで、1980年代に開業したとされ、2000年代の半ばに閉業したとみられます。その後の火事で一部が焼けたとされ、建物の裏側は取り壊しの途中のような姿になっています。国道や公道から眺めるだけにしてください。
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長野県飯山市の斑尾高原には、白い壁のリゾートホテル、ダイヤモンド斑尾の建物が残っています。1980年代半ばに開業し、70室あまりの客室にテニスコートや露天風呂を備え、スキー客や学生の合宿でにぎわいました。2012年ごろまで営業していたとされ、いまは雪の重みで手すりや屋根が傷んでいます。高原を通る県道97号から見えますが、私有地なので進入路には入らないでください。斑尾高原では大規模な再開発が進んでいて、景色は今後変わるかもしれません。
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瀬戸内海を見下ろす二つの廃ホテル:ホテル ラ・レインボー・旧王子アルカディアリゾートホテル
岡山県倉敷市の鷲羽山には、瀬戸大橋の開通(1988年)で観光客が増えたころに建てられたホテル ラ・レインボーが残っています。1990年には、高さ138メートルまで上がる回転式の展望塔「レインボータワー」が併設されましたが、施設は1997年に閉鎖されました。錆びたタワーと窓の割れた建物は、近くの公道からも見えます。敷地は有刺鉄線と看板で立入禁止になっていて、2022年3月までの2年あまりで35人が建造物侵入などで摘発されています。
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岡山県玉野市の王子が岳に建つ旧王子アルカディアリゾートホテルは、営業を「終えた」のではなく、一度も始まらなかったホテルです。国立・国定公園の施設を整備する国の事業の第一号として、リゾート法にもとづく国の融資約40億円で建てられ、1993年に地上7階・地下2階の建物が完成しました。ところがバブル崩壊で内装の資金が集まらず、客を迎えないまま放置されました。王子が岳のレストハウスの屋上展望台から眺められます。敷地は立入禁止で、バリケードが置かれています。
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番外編:「ホテル」と呼ばれたが、誰も泊まらなかった岩窟ホテル(埼玉)
埼玉県吉見町の岩山には、農家の高橋峰吉が1904年から亡くなる1925年まで、21年間ノミなどの手道具で掘り続けた洋風の岩窟があります。正式には「巌窟ホテル高壮館」といいますが、宿泊施設として営業したことはありません。「ホテル」の名は、掘る姿を見た人たちの「岩窟掘ってる」という言葉から来たとされます。
息子が作業を引き継ぎ、見物客が訪れる観光地にもなりましたが、1982年と1987年の台風で崩れて閉鎖されました。いまはフェンスに囲まれて立ち入れません。道路の向かいにある子孫の営む売店から外観の一部が見え、当時の写真も見られます。近くには国の史跡・吉見百穴もあります。
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廃ホテルを訪ねるときに守りたいこと
廃ホテルには必ず所有者がいます。敷地に入れば建造物侵入などの罪に問われ、実際に逮捕者も出ています。フェンスが壊れていても、扉が開いていても、入ってよいという意味ではありません。
古い建物は、床や階段、外壁がいつ崩れてもおかしくありません。近くに住んでいる人や営業中の宿もあります。夜に訪ねたり、大声を出したり、路上に車を停めたりしないでください。眺めるのは、道路や展望台、対岸など、誰でも立ち入れる場所からにしましょう。
見つけたら、地図に残してください
廃ホテルは、解体されれば二度と見られません。この記事で紹介した場所も、解体に向けた話し合いや再開発が始まっているところがあります。地方別の記事や「廃墟の撮影スポット」の記事でも、ほかの場所を紹介しています。
LIMapは、そうした場所を写真と位置つきで残していく地図です。外から眺めた写真があれば、ぜひ登録してください。
よくある質問
廃ホテルの中に入ってもいいですか?
いいえ。廃ホテルには所有者がいて、無断で入ると建造物侵入などの罪に問われます。岡山県のホテル ラ・レインボーでは、2年あまりで35人が摘発されました。崩落の危険もあるので、道路や展望台など誰でも立ち入れる場所から眺めてください。
中を見学できる廃ホテルはありますか?
神戸の旧摩耶観光ホテルでは、保存活動の費用にあてる有料のガイドツアーが開かれていて、その参加者だけが建物の近くや中に入れます。日程は主催団体の案内を確かめてください。
廃ホテルは心霊スポットですか?
心霊スポットとして語られる場所もありますが、LIMapでは、人の気配が消えた建物の静けさや、時代の名残を眺める場所として紹介しています。噂を確かめるために入るのはやめてください。
この記事が、あなたの知らない場所への入口になっていれば幸いです。
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